2021年05月07・14日 1673号

【菅首相、日米で対中国をアピールするが…/デジタル監視の手本は中国/民主主義とは相容れない】

 米中対立を「民主主義国家と専制主義国家の闘い」と位置付けるバイデン米大統領。菅義偉首相もこれに同調した。だが、両国で進む「デジタル改革」は、中国における超監視社会と相似形である。民主主義を破壊し、新たな全体主義をもたらすものなのだ。

対中軍拡を約束も

 菅首相とバイデン大統領は4月16日に会談を行い、「日米同盟のさらなる深化」に向けた共同声明をまとめた。声明は日米が共同して中国に対峙していく姿勢を強く打ち出した。

 軍事面では台湾有事を念頭に、中国への「抑止力および対処力の強化」をうたった。日本は「自らの防衛力を強化することを決意」し、米国は「核を含むあらゆる種類の米国の能力」に言及して威嚇した。

 沖縄の基地問題では、米軍普天間飛行場の固定化を避ける「唯一の解決策」であるとして、名護市辺野古への新基地建設推進を明記した。民主主義が日米共通の価値観だと何度も強調しながら、辺野古新基地に反対する沖縄の「民意」を公然と無視したのである。

 日米両国が軍事同盟の全面的強化を掲げたことは極めて危険であり、次号で詳しく論じたい。今回クローズアップするのは、菅政権が進める「デジタル改革」との関連である。

 バイデン大統領はAI(人工知能)などの先端技術で台頭する中国を意識し、「技術は専制国家ではなく、米国と日本が共有するような民主国家による規範によって管理されなければならない」と訴えた。

 現在の中国が民主主義を圧殺するデジタル監視国家と化しているのは事実である。ただしそれは「一党独裁国家」の専売特許ではない。資本主義の生き残り戦略としてのデジタル化は、民主主義の空洞化を必然的にもたらすのである。

個人情報保護は邪魔

 中国は世界一の監視カメラ国家である。全国に張り巡らせた監視カメラ網とAIによる顔認証や動作認証によって、当局は個人を識別し、いつどこで何をしているのかを簡単に把握できるようになった。

 これだけの監視システムは政府の力だけでは構築できない。巨大IT企業の協力が必須だ。治安維持活動や都市管理への協力は企業にとって大きなビジネスチャンスである。個人情報の大規模収集と自由な利活用は資本の要請なのだ。

 ネット通販最大手のアリババ・グループが本社を置く杭州市は、国家と巨大企業が作り上げた「生活まるごと監視都市」の最新モデルといえる。市内には4千台を超える監視カメラが設置され、AIが住民の行動を解析している。この技術は商業でも広く利用され、顔認証によるキャッシュレス決済が普及している。

 杭州には日本から多くの政治家や財界人が視察に訪れている。片山さつき地方創生相(当時)もその一人で、中国政府と地方創生に関する覚書を締結した(2019年8月)。先端技術を活用した都市づくりをめざすスーパーシティ構想の分野で情報共有などの協力を強化することが柱だ。

 片山は中国の「強み」をうらやましげに語っている。「中国は規制はあるけれども上から命令一下ですぐリリースされるんですよ。だから個人情報とかもまったく気にせずやっているんですね」。個人情報保護を気にしているようでは、デジタル改革は前に進まないと言いたいのだろう。

独裁がうらやましい

 これは片山さつき個人の浮ついた発言ではない。菅首相の指南役である竹中平蔵(慶應義塾大学名誉教授、元総務相)も、近著『ポストコロナの「日本改造計画」/デジタル資本主義で強者となるビジョン』で同じことを述べている。

 いわく「アメリカの場合、比較的規制が緩いので、ある程度はアイディアを試すことができます。中国の場合、共産党政府が強いので、その命令によって、時には法律も個人情報をも超越して試すことができます。これに対して日本の場合、現実の都市で普通に試そうとしても、様々な制約があって難しい」。

 竹中の話は“だから国家戦略特区制度を使え、スーパーシティ構想だ”と続く。菅政権およびその別動隊である大阪維新の会がこのプランに従い、地方からの実績づくりに動いていることは明らかだ。

 デジタル監視法案も「法律も個人情報をも超越」する作戦の一環だ。その狙いは、行政が保有する膨大な個人情報の無断利用、民間企業を含む第三者への無断横流しを合法化することにある(3面参照)。

 平井卓也デジタル改革担当相は、自治体の個人情報保護条例は「いったんリセット」と語った。こんな地方自治無視の発言がまかり通る国が、日米首脳が自慢するような民主主義国家であるはずがない。 (M)

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